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「おばあちゃんの坂道」 |
三重県立松阪高等学校 三年 糸川 ゆりえ |
海へとつづく細い坂道を、一人のおばあちゃんがぼちぼち歩いてゆく。その光景はなぜか幻想的で、まるでおばあちゃんの周りがやさしい色の空気で包まれているようだった。私は肌を焦がすような強烈な日差しが自分に降りそそいでくることも忘れ、夢中でキャンバスにその様子を描いた。去年の夏、美術部の合宿で漁師町を訪れた時のことだった。私はその絵に「おばあちゃんの坂道」というタイトルをつけた。
合宿先の漁師町は「絵かきの町」として有名な所で、毎年コンクールも開催されていた。入賞した作品は地元の海産物店や真珠店などに展示される。なんと私の作品も「田中かまぼこ店」というお店に展示されることになった。
家族全員で絵を見に行く当日、天気は大雨。海沿いの町はまるで台風がやって来たみたいに大荒れだった。私は店が閉まっているのではないかという不安でいっぱいだった。
雨の中、傘をさして店まで行くと、偶然、「田中かまぼこ店」だけに明かりが灯っていて、すぐに営業しているとわかった。嬉しくて駆け寄って店の戸を開けると、なんとそこには私が絵の中に描いたのとそっくりなおばあちゃんが座っていたのだ。私はびっくりして、すぐに絵のことを話した。おばあちゃんはにこにこしながら私の話を聞いてくれて、「私もこの絵、すっごく好きやわ。」と言ってくれた。たとえそれがお世辞だったとしても、自分の描いた作品を見て笑顔になってくれる人がいること、そして一枚の絵を通して、新たな出会いが生まれたことがとても嬉しかった。
私は一枚の絵をきっかけに、おばあちゃんからやさしさと笑顔をプレゼントされた。だから今度はお返しに「おばあちゃんの笑顔」を描いてあげたいと思っている。 |
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台風で大荒れの天気や田中かまぼこ店の明かり、そしておばあちゃんの姿が目の前に浮かんできます。この作品がまさに「一枚の絵」です。とても素直に書かれていて、読んでいる私たちも微笑ましい気持ちになって好感が持てる作品です。その反面、パンチに欠けた点が優秀賞にとどまった理由です。
そして、「肌を焦がすような強烈な日差し」という一カ所を除けば手あかのついた表現もなく、自分の言葉で表現されている点も高い評価になりました。一方で「おばあちゃんがぼちぼち歩いてゆく」の「ぼちぼち」に違和感を感じたという意見もありました。 |
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