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「父と私たち」 |
立命館宇治高等学校 一年 染田 あゆみ |
父は中国に単身赴任している。私が中学生の時は家族全員で香港に住んでいたけれど、私が「日本の高校へ行きたい」と言ったので母と弟と私は日本へ帰ってきた。父の仕事も順調だし、私たちも毎日三人揃って温かい食事をとる順風満帆な生活を送っている。
でも、たまに考えることがある。父は寂しくないのだろうか?よく考えれば私たちは冷たい家族である。一生懸命働いてくれている大黒柱を一人離れた所に置いてきたのだ。私は、自分の我儘を言ってみた。母は、父の単身赴任か私の寮生活かを話し合った時に、確か即決した気がする。弟だって、日本へ帰ってからの事しか考えていなかった。これでは、皆で父を見捨てたようではないか。父はどう思っただろう?
思い切って聞いてみた。 「お父さんは寂しくない?」。すると父はこう答えた。 「帰ってきた時に迎えてくれるから、寂しくないよ」。それを聞いて思い出した。私たちは、父が大好きなんだという事を。
普段は父の事が話題になるなんて事はほとんどないし、電話も週に1回程度だ。でも3ヶ月に1回、父が帰ってくる日は違う。誰もが父に会えるのを楽しみにしているのだ。私は知っている。母が、その日は父の好物を作っている事を。弟が、その日は早めに宿題を終わらせている事を。私だって、何を話そうかな、と3日前からドキドキしている。父に、学校の事、最近起きた出来事、楽しかった事や悲しかった事、全部話したい。父から、普段の生活や仕事の事、全部聞きたい。ただ面と向かうと恥ずかしくて捻くれた態度をとってしまうのだけれど…。 まぁ思春期なので許してね、お父さん。
どんなに遠い所にいても、一緒にいる時間が短くても、想う気持ちは変わらない。私たちは、そんな絆が奥深くにそっと存在する家族なのだ。
こうして私たちは、「お土産は楽しみだね」などと言いながら、温かな食事ととっておきの話を用意して父を迎えるのだ。「おかえり」と。 |
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親子の絆を実体験をもとにきちんとまとめている作品です。家族のつながりを前面に出しすぎた書き方ではなく、さりげなく終わっている構成もよかったと思います。誰もが父親の帰りを待っていて、いろいろな話をしたいと思っているのに、面と向かうと恥ずかしくてふてくされた態度をとるという、思春期にありがちな気持ちがうまく描かれていて、ほほえましく思いました。 |
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