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「ありがとうの力」 |
北陸学院高等学校 三年 向郷 遥 |
言葉には温度がある。あたたかい時もあれば冷たい時もある。人間の体と似ている。人の体温は約三十六度。私はこの温度が好きだ。人の体温を感じたとき、私は安心する。赤ちゃんは母親の腕に抱かれて眠っているし、街を歩くカップルは手をつないでいる。みんな三十六度に安心を感じている。
私にはひいおばあちゃんがいた。四年前に亡くなってしまったが、ひいおばあちゃんの死は、私に二つの三十六度を教えてくれた。
四年前、病室の空気は重かった。ひいおばあちゃんはその三年以上前から入院生活をしていた。とても強い意思を持った人で、病気にも堂々と立ち向かっていた。私が見舞いに行くと、必ず笑顔でむかえてくれた。そのひいおばあちゃんが今、目の前でこの世を去ろうとしている。私が隣で、泣くのをこらえていると、ひいおばあちゃんは私の手を握った。その手はあたたかい。三十六度だ。私が何度も抱きしめられ、つないだ手。しわしわで、そこから歴史を感じた手。
「遥、ありがとう。本当ありがとう。」
力なくひいおばあちゃんが言った。涙がとまらなかった。私はこんなにきれいな「ありがとう」の五文字を聞いたことがなかった。その五文字はあたたかい。ひいおばあちゃんの手もあたたかい。二つの三十六度を私は今でも忘れたことはない。しかしその手はだんだんと冷たくなってしまった。
「ありがとう」は魔法の呪文だ。人の心をあたたかくする。三十六度に一番近い言葉だと信じている。周りを見ると、その呪文を言える人が少なくなったように思う。もう一度考えてほしい。言葉にも温度があること。あなたの一言で幸せになれる人が必ずいること。あなたと手をつなぐことで、安心する人がいるということ。
ひいおばあちゃん。私はあなたのような、三十六度の言葉を使える女性になるからね。 |
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コンテスト全体のテーマである「36℃」をキーワードに、自分の経験をうまく表現しています。ひいおばあちゃんと別れる切なさが行間から感じられました。また「ありがとう」という言葉が、私たちの周りから急速に消えつつある現状を考えると、よい着眼点だと思います。ただ、第四分野の“社会のなかの「どうして?」”の観点でみると弱いところがあります。第一分野や第二分野であれば、もっと高い評価を得ていたかもしれません。 |
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