#41 多文化共生時代の日本語教育
多文化共生とは、
みんなが仲良くなること。
そのためにどんな日本語教育が必要か。

国際学部 国際学科
カースティ祖父江 准教授
ソブエ カースティ シャーロット准教授の研究分野は、多文化共生、日本語学、日本語教育など。留学生や日本語教員をめざす学生に日本語学などを教える一方、万象城体育官方网_bob电竞体育博彩-下载app平台の日本語教育センターの運営も担っています。先生に、日本語教育の課題や展望について話を聞きました。
社会課題
留学生と日本人学生の間で「多文化意識」が育たない理由。
近年、日本に留学している外国人学生が増え続け、諸大学の学部生と位置づけられている留学生が2019年過去最多の人数に達しています。しかし、多くの大学では日本人学生との留学生の間の交流は積極的に進んでいるわけではありません。日本人学生と留学生の「学び合い」や「多文化意識」がなかなか育たないという課題が先行研究からも浮かび上がっています。
その理由の一つとして、留学生は「学部生」として数えられているものの、多くの大学では留学生全員が日本人学生と同じ教育課程を受けていない現状が考えられます。日本語教育を中心に行う「留学生別科」、あるいは短期留学生や提携校からの交換留学生に日本語や日本の文化を中心に授業を行う「留学生センター」の管轄で学ぶ学部留学生は少なくないのが実情です。また、多文化意識の低さから、日本人学生と留学生がお互い関心をもたないことも先行研究で指摘されています。
異なる文化的背景をもつ同士が互いに相互理解を深め、多様な人、文化、社会とのつながりを形成しながら自ら行動できる人材を育成するためにも、キャンパス内で留学生と日本人学生が交流する機会を創出していくことが必要ではないでしょうか。
出典:
万象城体育官方网_bob电竞体育博彩-下载app平台福祉社会開発研究所『万象城体育官方网_bob电竞体育博彩-下载app平台研究紀要- 現代と文化』 留学生との接触による日本人学生の「多文化」に対する意識変化 – 国際福祉開発学部の取り組みからの一考察 -- カースティ祖父江
INTERVIEW
日本語教育を通じて多文化共生の意識を育む。
先生が来日されたのはどのようなきっかけからですか。
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カースティ
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私はイギリスの東北部の田舎町で生まれ育ったのですが、ちょうど高校生のとき、その町に日本の自動車メーカーの工場ができて、日本人がたくさん移り住むようになりました。そこで日本の友達ができたりして興味をもち、大学の日本語学科に進学することにしました。進学する前に1年間、日本でホームステイをしながら日本語を学んだり、旅をしたりしたんですが、日本の生活や文化がとても好きになり、ますます進学へのモチベーションも高まりました。大学卒業後、日本に移り住んで三十数年、今では人生の大半を日本で過ごしていることになりますね。

先生が教えていらっしゃるのは、どんな科目ですか。
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カースティ
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一つは、本学の留学生に向けて、日本語を教えています。もう一つは、日本語教員をめざす学生に対して、「日本語学」や「日本語教育法」「社会言語学」「対照言語学」を教えています。1年生の授業では自己紹介として、生まれ育ったイギリスの話もします。そのなかで必ずするのが、イギリスなどの連合国と日本が戦った太平洋戦争を体験した祖父の話です。父方の祖父は、私が日本語を勉強することにいい印象を抱かず、周囲の人に隠していたようです。逆に母方の祖父はとても応援してくれて、私がその後、日本で暮らし、日本人と結婚したことについても、「あなたたちの世代が国を超えて仲良くできているのを見ると、自分が戦争を体験したことも納得できる」と言ってくれました。その感覚はまさに多文化共生につながるものだと考えています。
外国人の話す日本語に厳しい、日本人。
先生はとても流暢に日本語を話されますが、日本語を習得する上で苦労はありましたか。
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カースティ
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それはもう、とても苦労して何度も泣きました。それでも諦めず何年も勉強を続け、日本語能力検定の一番高い級を180点満点で合格し、日本語教育能力検定試験も合格しました。それでも未だに、「カースティ、日本人はそういう言い方をしないと思うよ」「ちょっとその日本語は違うと思うよ」と、周囲の方から指摘を受けることがあります。彼らはもちろん悪気はなく、善意から指摘してくださっていると思うのですが、日本人は日本語に対するプライドが高く、正しい日本語を話さなくてはいけないという強いこだわりをもっているように感じます。
なるほど、日本語に対するプライドですか。
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カースティ
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そうです。日本語学習関係の学会に出ても、それは強く感じます。「外国人の日本語の間違いをどう直すか」「外国人に日本人みたいな日本語を話してもらうにはどうすればいいか」「外国人の失礼な言い方を正すにはどうすべきか」といった論文が多く発表されます。そのベースには、日本人の帰属意識があると思います。日本人は髪の毛が黒くて、目も黒くて、日本語が話せて、箸が使えるといった共通の文化があれば、だいたい相手を日本人と認められます。日本国籍をもっているかどうかよりも、見た目の日本人らしさが大切で、みんな不思議な帰属意識をもっています。そして、日本語を日本人みたいに話せるかどうか、という一線を引いて、日本人、外国人を区別するように感じられます。

日本語教育が多文化社会への壁をつくっている。
そもそも日本語教育はどういう目的で行われるべきものでしょうか。
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カースティ
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ある国を基盤にするとしたら、一緒に暮らしていくには共通言語が必要になりますね。それが日本の場合、共通言語というと、日本語しかありません。日本に住んでいる人たちがお互いに理解を深めることができたり、仲良くこれから日本社会を築いていくには、会話が必要です。日本語教育はそのためにあると思います。私は基本的に、多文化共生とは、みんなが仲良くなることだと考えています。
日本語はいろいろな国の人が仲良くなるためのツール、ということですね。
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カースティ
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そうです。言葉はコミュニケーションの道具というのが基本ですから、そこにプラスアルファの要素をいろいろ要求するのは、どうでしょうか。東京大学に、宇佐美洋先生(日本語学?日本語教育学)という面白い研究をされている方がいます。先生は長年、留学生に「ゴミの出し方を間違った」という設定で謝罪文を書かせて、その日本語を、日本人はどのように評価しているかという調査をしていらっしゃいます。それを見ると、日本人の反応が本当にピンキリなんです。「一生懸命書かれた文章だから100点」という人もいれば、「謝罪文に季節の挨拶は入れるべきじゃない」などと厳しく指摘する人もいます。そこからわかることは、外国人の日本語に対する日本人の評価は一概には言えない。だから、日本語教育者はいろいろ心配し過ぎて「完璧な日本語を教えなくてはならない」と思い込む必要はないということです。また、言語習得をめぐる環境はこの50年間の間にものすごく変化しています。1970年代に来日した人が学ばなければならなかった日本語と、今コンビニなどでバイトしている留学生が学びたい日本語は全く違います。でも、1970年代に開発された日本語教材がそのまま使われていることもあり、問題意識をもつ日本語教師もたくさんいます。

多様なルーツの人と連携できる人材を育てたい。
完璧な日本語を話せなくてもいい、という意識が広がれば、外国の人にとって日本語習得のハードルも下がりますね。
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カースティ
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そう思います。たとえば、私のゼミの卒業生に、介護施設で働いているベトナム人の女性がいます。彼女はきれいな日本語というよりも、名古屋弁も混じった、ちょっと乱暴な日本語を話すんですね。それで仕事に支障が出ているかというと、そんなことはなくて。何度か仕事先を訪ねたことがありますが、入所しているおじいちゃんおばあちゃんにとても愛されていました。そういう現場を見ると、日本語教育者は厳格な日本語にこだわり過ぎている、と強く思いますね。
先生のゼミではコミュニケーションツールとしての日本語を教える上で、どんな工夫をしていらっしゃいますか。
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カースティ
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私の3年、4年ゼミでは、基本的に半分日本国籍、半分留学生や外国にルーツのある学生に所属してもらっています。そこで、大切にしているのは、正しい日本語にこだわることなく、いろいろなルーツの学生が仲良くコミュニケーションを取ることですね。たとえば先日、半田市で開催された夏祭りに、ゼミでかき氷の店を出しました。お店に、フィリピンのハロハロと、インドネシアのエステラーというゼリーの入ったかき氷、ベトナムのチェーバップ(とうもろこし)の入ったかき氷、そして、ネパールのチャイを並べたのですが、この店の準備、運営を通じて、学生たちはみんな、ものすごく仲が深まりました。このように、共通の目的をもって作業することは、多文化共生におけるMulticultural Theory(多文化理論)の基本とも言われていて、異文化の人が仲良くなる一歩なんですね。
それはとても楽しそうなイベントですね。
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カースティ
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本当にみんな、楽しんでくれました。私のゼミでは毎年、こういうイベントを続けていますし、国際学部では留学生にリーダーシップをとってもらう場面を意図的に設けて、日本人学生と留学生が対等に仲良くなるよう仕掛けています。ですから当学部の学生が卒業するときになると、誰が何人だったかみんな忘れています。「あ、そうか。あなた、インドネシア人じゃなくて、日本人だったね」なんて会話も聞こえてくるほどです。どんなバックグラウンドの人とも一緒に取り組めることは、これからの日本社会を生きる上で大きなスキルになると思いますし、そうした人材を育てていきたいと考えています。

Man to Manのチャレンジ
愛知県名古屋市を中心に全国14拠点を展開し、有料職業紹介事業、労働者派遣事業を中心に幅広い人材サービスを展開するMan to Man株式会社。地域雇用の促進と、人々が仕事を通じて活躍できる社会づくりをめざした事業運営を行っています。
言葉や文化の壁を超えて、
外国人が日本で
長く活躍できるように支援。
Man to Man株式会社
愛知県名古屋市中区新栄一丁目7番7号 RTセンターステージビル4F

外国人材の雇用促進を多角的にサポート。
少子高齢化が進む日本では、外国人材への期待が年々高まっています。そうした社会のニーズにいち早く応え、Man to Man株式会社は2010年より外国人材事業に着手し、外国人材に関する支援サービスを提供してきました。
第一に取り組んでいるのが、外国人留学生の就職支援です。2012年から、外国人留学生向け就職支援サービスを開始し、2014年から、毎年春と夏、外国人留学生インターンシップ受入れを行っています。また、2018年から2024年まで、愛知県より「留学生地域定着?活躍促進事業」の運営を受託し、県内で学ぶ留学生と企業の交流?相互理解を促進(愛称は“AICHI VALUE”)。企業見学やインターンシップなど留学生と企業の接点をつくり、若いグローバル人材の活躍を支援しています。二番目は、特定技能資格(※)をもつ外国人材の紹介サービスです。深刻な人手不足にある製造業を中心に、特定技能資格をもつ外国人材を紹介し、就業後のアフターフォローまでをきめ細かく行っています。さらに、ベトナム、インドネシアなどアジア各国の大学生を誘致して行うインターンシップなども力を入れています。三番目は、製造業の多い愛知県に多数定住しているブラジル人向けに、情報提供を中心に支援していくサービスです。企業で働くブラジル人はもちろん、その家族、子どもたちへの支援を通じ、定住ブラジル人の次の世代の未来づくりに取り組んでいます。

- 2019年4月に創設された在留資格。国内人材の確保が困難な分野で、一定の専門性?技能を有する外国人を受け入れるための資格です。
日本語の課題を克服できるように、
外国人材と企業の双方に働きかける。
外国人材の就業を支援する上で、大きな課題となるのが日本語です。同社では、留学生を対象に、ビジネス日本語、ビジネスマナー、応募書類の書き方などのセミナーを開催し、仕事で使える日本語をマスターできるよう支援しています。一方、企業側には日本語能力試験の結果だけで判断せず、面接でコミュニケーション能力全体を評価するように。そして、仕事の現場でも形式ばったビジネスの日本語ではなく、やさしい日本語を用いることで外国人スタッフとのコミュニケーションが円滑に進むようにアドバイスしています。
人手不足の深刻化する日本が継続して発展していくには、今後も外国人材の力が必要不可欠になります。そうした未来に向けて、同社では、外国人材と企業双方の支援に注力し、とくに課題となる日本語教育の機会を提供し、企業の人材教育を支援することで、日本で働きたい外国人が日本で長く活躍できるような環境を整えていく考えです。また、昨今は、海外の人にとって日本で働く魅力が低下していることも指摘されています。外国人材から選ばれる日本、選ばれる愛知県になるように、企業サイドや地域社会のサポートにも一層力を注いでいこうとしています。

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