「打って反省、打たれて感謝」 幼い頃から始めた剣道で私は先生方から何度もこの言葉を教わってきた。初めて言われたのは小三の夏。私が初めて大会で勝つことができた日だ。あの時、勝てたことが嬉しくてたまらなくて、試合会場で喜びを爆発させていた。その時先生に言われた。「勝てたことは嬉しいことかもしれないけれど、剣道は相手がいるからこそできるスポーツなんだ。自分が打てたらそれが正しくきれいな打ちだったかどうかを反省し、打たれたら自分の隙を打ってくれてありがとう、と感謝する。これが剣道において大切なことだよ」と。 当時の私には先生がおっしゃる意味がわからなかった。なんで勝っても反省をしなきゃいけないの?自分が負けた相手に感謝するなんて考えられない!そんなことを考えていた小学生時代。私は全然強くなれなかった。 中学?高校になって部活動でも剣道をやるようになり、全国レベルの相手とも試合をする機会が多くなった。弱い私は負けてばかりで悔しい思いを何度もした。しかし、そんな経験をするうちに、いつの日からか自分の中で、勝っても負けても悔いの残らない試合をしようという意識に変わった。その時から、自分が一本を相手から取れた時は正しくきれいな打ちだったかを振り返り、取られた時は私の隙をみつけてくれてありがとう、と感謝できるようになった。また、試合が終わった後、相手に「ありがとうございました」とお礼をしにいくことも習慣となった。剣道以外の場面でも、常に自分の行動を反省し、相手に敬意を払うことが心の中にあるようになった。「打って反省、打たれて感謝」。剣道に夢中になればなるほど、この言葉が私のモットーとなって、自分を変えていったのだ。 私は今、この言葉を教えてくれた当時の先生に伝えたい。「あの時、私に教えてくれてありがとうございました。今この言葉のおかげで大好きな剣道を頑張れています」と。
日本の剣道や柔道、茶道などには「残心」という言葉がありますが、勝負が付いた瞬間の「残心」がよく書かれている作品です。こういう話は説教くさくなりがちですが、さわやかに書いてある点が高評価につながっています。作者が剣道に夢中になればなるほど、「打って反省、打たれて感謝」の気持ちを理解し、成長していく様子がよく伝わってきます。作者の心の動きがリズム良く書かれていて、読みやすいことも、最優秀賞に選ばれた理由です。完成度が高く、第2分野では頭一つ抜けた作品だと思います。