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「バスの中で」 |
愛知県立岡崎高等学校 二年 黒野 詩織 |
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先日、足をけがして、一ヵ月ほど、駅と学校の間をバスで通学することになった。
初めてのバス通学の日。どきどきしながら発車を待って窓の外を眺めていて、私は一瞬息をのんだ。盲導犬をつれた人が、バスのほうへやってくる。乗ってきたら、私はどうしたらいいんだろう。何か手伝ったほうがいいのだろうか。でも、自分自身も今は体が不自由だ。そんなことをごちゃごちゃ考えているうちに、やっぱりその人は乗ってきた。
結果的にいうと、私は何もできなかった。いや、たぶんできたのにしなかった。でも、乗客の一人が、自然に彼に声をかけ、手をさしのべた。
「おはようございます。今日は三番め空いてますよ」
「ありがとうございます」
三番め。私の隣にその人は座った。盲導犬もその足もとにちぢこまって伏せた。しっぽの感触が、靴をとおして伝わってきた。バスに乗っている間じゅう、なぜだかわからないけれど、胸がとくとく鳴っていた。
次の日も、その次の日もそうだった。誰かかれか、彼を助ける人がいた。そのバスの中ではふつうのことだったのかもしれないけれど、初めてそういう人や場面に出会った私には、とても新鮮に思われた。
自分が足をけがしてみて実感したのだけれど、体の自由がきかないと、ふだんとちがうことをするのがとてもこわい。そういう時、友達が助けてくれると、とてもうれしい。きっと目の不自由なあの人も、立ってバスに乗るのは大変なことだと思う。全然感覚が変わってしまうから。
そうならないように、と自然に、当たり前に、誰かかれかが行動する。一人一人が、自分の意思で。
いいな、この空間。
足をけがしたことで得た、いいことの一つである。 |
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「しっぽの感触が、靴をとおして伝わってきた」という表現が気に入りました。最優秀賞や優秀賞ではなく、審査員特別賞に選んだのは、このエッセイは第一分野の「人とのふれあい」の方がぴったりではないかという意見がいくつか出たからです。第一分野で応募した方が高い評価を得たかもしれません。そこが残念です。バスでの盲導犬とのふれあいからもっと町の話題へ広げていけば、もう少しこの分野にふさわしい内容になったかもしれません。 |
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